私は2008年9月から関係者の方々のご理解を得て、大久保病院(新宿/東京都)で月に一度のIgA腎症専門外来を始めました。その目的は一言で言えば、IgA腎症難民の救済にあります。
5年くらい前から扁摘パルスの治療を求めて、私の旧職場である仙台社会保険病院腎センターを遠方から訪れるIgA腎症患者が後を絶たない状況でした。扁摘パルスは高度先進医療とは異なり、基本的には扁摘とパルスという二つのアナログ的治療の組み合わせで、耳鼻科医の協力が得られれば、ある程度以上の臨床力のある医師であれば安全に実施でき、その効果も医師による大差はありません。すなわち、患者さんたちは名人による特殊技術が必要な治療を受けるために飛行機や新幹線に乗ってはるばる仙台にやってくるわけではないのです。
私たちのもとを訪れた患者さんの来院理由は以下の二つでした。
「扁摘パルスを受けるのであれば実績の豊富な施設で受けたい。」
「扁摘パルスを受けたいが主治医の理解が得られない。」
前者は患者さんの好みであり、問題はないと思われます。しかし、後者は我が国のIgA腎症診療における本質的な問題を含んでいると考えます。扁摘パルスが必ずしもすぐには必要のない症例、あるいは進行しすぎてもはや扁摘パルスをしても効果が期待できない症例は現実に存在します。従って「あなたに扁摘パルスを私は勧めない」という医師の説明は必ずしも間違いではありません。実際に、折角、遠方から来院して頂いても「残念ながら今の段階では扁摘パルスの効果はもはや期待できないので、お勧めできません」と患者さんの一縷の望みに残念ながら応えることが出来なかった事例を私自身これまでに幾度も経験しています。
問題は「扁摘パルスを勧めない」という医師の説明が患者さんの腑に落ちていない点にあります。特に早期の段階のIgA腎症患者と医師とのやり取りの中で、両者の気持ちのずれが生じることが多いと思われます。
「20年後には30−40%の患者さんが透析になりますが、今はその心配はありません。なので、扁摘パルスのような侵襲を伴う、副作用のある治療を今はする必要ありません。」
こういう説明に納得できずに、主治医に不信感を抱き、結果的に紹介状を持たずに将来に対する不安を抱え、深刻な表情をして私たちの外来を訪れる患者さんが現実には少なくありません。このような患者さんが来院すると原則として主治医に診療情報の提供を依頼しますが、その対応はしばしば冷たく感じられます。私はこうした患者さんを「IgA腎症難民」だと思っています。誠意をもって医師が説明しても患者さんが納得しないこともあるでしょう。医師も人の子であり、そのような患者さんのことを快く思わないこともあるかも知れません。しかし、自分の説明で患者さんが腑に落ちなければ、実際に扁摘パルスを積極的に行なっている最寄りの医療施設にセカンドオピニオンのための紹介状を書くのが臨床医として最低限の努めであると私は思います。
仙台は空港も近く交通の便もよいが、東京は何といっても交通の便が格段に良いことから、私が東京に出向いていることを患者さんたちから感謝されることが多々あります。しかし、全国には、すでにIgA腎症の早期の段階から扁摘パルスを実施している医療施設は一部の地域を除きほとんどの都道府県に存在しています。もはや、寛解・治癒を求めてIgA腎症難民が飛行機や新幹線を使い、悲壮な思いで扁摘パルスの実施施設に駆け込む必要がない時代がそこまで到来しています。患者さんが心底納得できる治療をなるべく居住地に近い医療施設で受けることができるような手伝いを今後も続けて行きたいと思っています。
堀田 修クリニック 院長 元仙台社会保険病院腎センター長(〜2008年12月31日) |
堀田 修クリニック (宮城県仙台市)
外来日:外来日:月〜土(予約制) 予約電話受付時間 月、火、水、金:14時〜17時半、木、土:9時〜12時 (022-390-6033)
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成田記念病院(愛知県豊橋市)
月に1回 金曜日(予約制)
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慢性免疫病の根本治療に挑む |
IgA腎症の病態と扁摘パルス療法 |
「Recent Advances in IgA Nephropathy」
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本ホームページの内容は仙台社会保険病院腎センターで蓄積されたものが大半を占めますが、本ネットワークの目的は特定の団体、個人のPRではなく扁摘パルスに関する非営利目的の情報発信です。私(堀田 修)が個人で賛同者を募り、ネットワーク運営を行っています。