2011年6月15日-17日(金)パシフィコ横浜で第54回日本腎臓学会(総会長佐々木成東京医科歯科大教授)が開催されました。総会長主導企画シンポジウムとして学会二日目「IgA腎症の治療:扁桃摘出+ステロイドパルス療法」(座長:今井裕一先生、川村哲也先生)が議論されました。
シンポジウムでは扁摘パルスに詳しい5人の先生方からの発表がありました。中でも最も注目を集めたのは慈恵医科大学腎臓内科の宮崎陽一先生が発表した厚労省進行性腎疾患に関する調査研究班・IgA腎症分化会が主体となって行ったランダム化比較試験(RCT)「IgA腎症に対する扁桃摘出術とステロイドパルス療法の有効性に関する多施設共同研究」の中間報告でした。
具体的には全国から同意が得られたIgA腎症の患者さん80名をランダム(無作為)に扁摘パルス群(40名)とパルス単独群(40名)に分けてその後の経過の違いを比較したというものです。結果は、一年という短い観察期間にもかかわらず扁摘パルス治療群がパルス単独治療群に比べて統計学的有意差をもって寛解率が高かったという画期的なものでした。
私たちはこれまで扁摘が手術侵襲を伴うリスクのある治療なのでRCTを行うことは不可能と考えてきました。しかし、厚労省研究班は今回それを実行し、結果を出したのですからあっぱれです。今回のRCTが臨床現場に与える影響は大きく、扁摘パルスがエビデンス(科学的根拠)のある治療としてようやく認知されたことになります。
これまで、扁摘パルスは経験知に基づいた、乱暴な言い方をすると、「やれば効果がわかる治療法」として時間をかけて少しずつ全国に普及して行きましたが、RCTによる有効性の証明がなかったため、治療法の選択でRCTの結果を重視する欧米では相手にされず、国内でも同じ理由で扁摘パルスを疑問視する医師も少なくありませんでした。その結果、患者さん本人は扁摘パルスをして寛解を目指したいのに、主治医には反対されて彷徨うことになった「IgA腎症難民」がたくさんわが国に生まれてしまいました。このネットワーク設立の目的はそのようなIgA腎症難民の救済にありました。
しかし、今回のRCTの結果により、この状況は一変すると思われます。つまり、今回のRCTの結果は近い将来、権威ある国際誌に発表され、それをうけて、エビデンスに基づく医療の一環として扁摘パルスがIgA腎症の標準的治療として推奨されるに至り、我が国のIgA腎症難民の数が激減することが予想されます。
したがいまして、本ネットワークの今後の活動の中心は㈰扁摘パルスの実際に関しての相談、㈪扁摘パルスをしても血尿が消えない(糸球体血管炎が消滅しない)症例の相談、㈫扁摘パルスをうけた患者さんの感想の集積とそのフィードバックになって行くと思います。
IgA腎症難民を救うという当初の使命から解放される日がそう遠くなさそうであることを嬉しく思いますが、今後も本ネットワークがIgA腎症に悩む患者さんとIgA腎症診療に携わる医師の皆さんの一助となるよう尽力したいと思います。
堀田 修クリニック 院長 元仙台社会保険病院腎センター長(〜2008年12月31日) |
堀田 修クリニック (宮城県仙台市)
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本ホームページの内容は仙台社会保険病院腎センターで蓄積されたものが大半を占めますが、本ネットワークの目的は特定の団体、個人のPRではなく扁摘パルスに関する非営利目的の情報発信です。私(堀田 修)が個人で賛同者を募り、ネットワーク運営を行っています。