IgA腎症では少しずつ一部の糸球体が時間をかけ廃絶してゆき、時間が経過するにつれて、廃絶した糸球体が増えて残っている糸球体の数が少なります。では、どのような仕組みで糸球体が廃絶していくのでしょうか?
IgA腎症の進行メカニズムの初期の段階で中心的役割を果たすのは、好中球やマクロファージによって引き起こされた炎症に伴う断裂や内皮傷害などの糸球体毛細血管壁の傷みです。糸球体毛細血管の断裂や壊死のあとは瘢痕となりその部位の機能が失われます。この現象は一時期には全体の糸球体の一部(医学用語では「巣状」)で、さらにひとつの糸球体毛細血管の一部(医学用語では「分節性」)に繰り返す“炎症→瘢痕”の集積がIgA腎症の早期の段階における腎症進行メカニズムの中心です(図1)。
IgA腎症の比較的早期の段階までは糸球体毛細血管炎そのものが腎症の主な進行因子ですが、腎症が進行するにつれて炎症とは関係のない、進行性の経過をたどる腎疾患(IgA腎症、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症など)に共通した以下に述べるような因子が複合して、腎症の悪化を促進します。
腎症が進行して糸球体の数が減ると、生き残っている糸球体にそれだけ過剰な負荷がかかるようになり、糸球体の数が減れば減るほど残った糸球体はつぶれやすくなります(代償性糸球体過剰濾過)。また、糸球体から漏れでた蛋白粒子は尿細管に大量に吸収され、ライソゾームの処理能力を超えると、それ自体が尿細管上皮細胞の炎症性サイトカイン産生の刺激となり、尿細管ならびに尿細管の外側の間質の傷害をひきおこします(蛋白過剰負荷性尿細管・間質傷害)。これに加え、腎症が進行すると腎臓の血流が低下し、虚血の状態が生じやすくなり虚血そのものにより腎臓の硬化がさらに促進されます(虚血性腎傷害)。
以上をまとめると、IgA腎症の初期にはくすぶり型糸球体毛細血管炎が腎症を悪化させる原因の主たるものであるが、腎症が進行すると複数の進行因子が複合的に作用し、腎症の悪化を促進させます。こうした病態を反映して、IgA腎症の腎機能の低下速度は一般的に、始めのうちは緩徐で、途中から加速されます(図2)。すなわちIgA腎症の発症からの経過を見てみると当初は比較的簡単に治癒させることが疾患であったものが途中から手のおえないモンスターに変貌してゆくのです。