「IgA腎症根治治療ネットワーク」を設立して4か月が経過しました。
これまでIgA腎症の患者さんやIgA腎症の診療に携わる医師の方々からたくさんの質問や意見が寄せられています。
相談窓口に寄せられる質問内容にはいくつかの共通点があります。ここで実際によく質問される代表例を解説します。
1.「今の段階ではまだ扁摘パルスは必要ない」と担当医から言われているが、このまま様子を見ていて本当に大丈夫でしょうか?」
この質問をされる患者さんの多くは比較的早期のIgA腎症で、扁摘パルスにより寛解・治癒が80%以上の確率で得られます(根拠:パルスを3週連続で行った仙台社会保険病院の臨床成績)。
『今の段階で扁摘パルスは必要ない』という医師の理由は大きく分けると以下の二つです。
第一は自然寛解の可能性です。早期の段階のIgA腎症は20%くらいが自然寛解すると考えられています。自然寛解するIgA腎症患者に対し、侵襲的で副作用を生じるおそれのある扁摘パルスを行うことは理論的には過剰治療になります。したがって、「過剰治療は絶対に避けるべきだ!」と考える医師は『今の段階で扁摘パルスは必要ない』と説明すると思います。しかし、残念ながら早期の段階のIgA腎症で自然寛解を予測することは不可能であり、扁摘パルスが過剰治療となる症例を見分けることは実際にはできないと言わざるを得ません。
それゆえ、患者さんが過剰治療になる可能性のあることを承知のうえで、寛解・治癒を確実に得るために早い段階での扁摘パルスを望む場合は『今の段階で扁摘パルスは必要ない』という医師の考えと患者さんのニーズの間に齟齬が生じることになります。そうした場合は、患者さんの希望や考えを理解し、この段階のIgA腎症に扁摘パルスを行う意義を十分認識している別の医師のもとで治療を受けることが望ましいといえます。『今の段階で扁摘パルスは必要ない』という担当医を説得して扁摘パルスを受けることは、担当医にしてみれば「不本意な医療」を行うことであり、結果的に不健全な医療となるので避けるべきでしょう。
第二はIgA腎症治療指針の影響です。「ステロイド(パルスを含む)は進行性の経過をたどる、障害度の進んだ症例(比較的予後不良群)が適応である」という、この指針に従えば、早期の段階では腎機能は低下しないので扁摘パルスの適応にならなくなってしまいます。この、早期のIgA腎症に扁摘パルスを控える傾向は、不思議なことにIgA腎症の研究キャリアのある医師でむしろ強い印象があります。
IgA腎症診療指針には二つの問題点があると私は考えます。ひとつは「IgA腎症は生涯治らない」という概念が前提となっていること。そして二つ目は、実際にはIgA腎症のステージの違いを反映している分類が、あたかもIgA腎症が経過の異なる4つのタイプ(予後良好群、予後比較的良好群、予後比較的不良群、予後不良群)に分類されるかのような誤った解釈をあたえることです。
早期の段階で有効な治療を行えば、IgA腎症の寛解・治癒が得られることは、すでに周知の事実になってきています。しかし、その一方で、ある程度まで進行してしまえばいかなる治療を行っても寛解・治癒が望めなくなるのも歴然とした事実です。
すなわち、「IgA腎症は早期の段階であれば、寛解・治癒を目指すことができ、一刻を争う必要はないが、数年単位の治療介入の遅れは寛解の機会を逃すことにつながりうる」という認識を診断がついた時点から医師と患者さんが共有したうえで、年齢、仕事、学業、将来の人生設計、家庭の事情などを考慮に入れて患者毎に扁摘パルスのカードをどの段階で使うのが最善かを患者さんと医療のプロである医師がともに考えることが重要です。
2.「・・・・と経過が長いですが、扁摘パルスはまだ間に合うでしょうか?」
扁摘パルスを行うことで「寛解・治癒が得られる」、「寛解・治癒には手遅れだが、進行を遅らせることができる」、「もはや、進行を遅らせることもできない」の3種類の結果がもたらされます。このうち扁摘パルスが適応になるのは前二者になります。
一般的に経過が長いと寛解率が下がりますが、経過が長くても寛解が得られる症例もあり、結果を予想するうえでは罹病期間に加え、腎機能、蛋白尿の程度などが参考になります。
すでにIgA腎症の診断がつき、外来を受診された方には、患者さん毎に扁摘パルス後に予想される結果をお話しします。
「おそらく、寛解・治癒が得られると思います」とお話しすると、ほとんどの患者さんの表情がパッと明るくなるのがわかります。しかし、「寛解は難しいですが進行を遅らせるにはまだ手遅れではありませんよ」という説明を聞いて表情が明るくなった患者さんはほとんどいません。
「寛解・治癒」を治療目標とするのと「腎症の進行遅延」を治療目標とするのとでは患者さんにとって雲泥の差があることを医師は十分認識する必要があります。
3.「・・・。以上がこれまでの経過ですが、今回、担当医から透析導入が必要と言われました。扁摘パルスをいつの段階で行えば私は透析にならずに済んだのでしょうか?」
現実の医療に「たら」や「ねば」はないので、この切実な質問に、患者さんが納得する答えを私は持ち合わせていません。
検診を受けていない人はIgA腎症と診断された時点で、残念ながらすでにその時期を過ぎていることも少なくありませんが、すべてのIgA腎症には寛解・治癒を目指すことのできる時期があります。
当HPでは実際に扁摘パルス治療をお受けになった患者さんから、アンケートによるご意見を頂いています。「結果に満足」している患者さんの共通点は寛解(血尿・蛋白尿ともに陰性化)が得られていることです。この中には扁摘パルスをしなくても寛解になった方がいたかもしれません。一方、治療開始が遅れ、蛋白尿が残った患者さんの結果に対する満足度は低くなっています。そして、こうした患者さんは一様に、もっと早く治療を受けるべきであったという後悔の念を少なからず抱いています。
IgA腎症診療において、これまでは、治療をしたことにより不都合が生じて、医師が責められることはありましたが、透析医療が必要な段階にまで腎症が進行してしまったことで、医師が責められることはほとんどありませんでした。しかし、早期の段階から医療機関にずっと通院していたにも関わらず、寛解が期待できる時期をやり過ごし、最終的に透析導入に至ってしまうというパターンは、是が非でも避けなければいけない時代になったと感じています。
扁摘パルスはそれぞれの患者さんにとって最善の時期に実施することが重要ですが、そのためには腎症の早期発見と医師の経験知が不可欠です。そして、全国にはすでに、IgA腎症に対する扁摘パルスに関して必要な経験知を持つ多数の医師がいるのです。
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http://www.hoc.ne.jp/
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http://www.meiyokai.or.jp/narita/news.php?id=25
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IgA合羈 |
Recent Advances in IgA Nephropathy
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本ホームページの内容は仙台社会保険病院腎センターで蓄積されたものが大半を占めますが、本ネットワークの目的は特定の団体、個人のPRではなく扁摘パルスに関する非営利目的の情報発信です。私(堀田 修)が個人で賛同者を募り、ネットワーク運営を行っています。