第一回中間報告

アンケート投稿者の性別は女性優位（67％）の結果が得られました。IgA腎症の発症頻度にこれほどの性差はなく、また扁摘パルスを実際にうけた患者さんもさほどの性差はないと推測されますので、今回の圧倒的な女性優位は当ネットワークに対する関心度の性差を反映しているものと思われます。

年齢は20代、30代、40代が多くIgA腎症の年齢分布として偏りはないと思います。全国的には

この年齢層を中心に扁摘パルスが行われていることがうかがわれます。

都道府県別ではアンケート投稿数が最も多かったのは大阪府で二位が神奈川県でした。大阪では全国的にも早い時期から扁摘パルスに取り組んでいる医療施設が多いことと、行動的な大阪人気質が反映されていると思います。ちなみに当ネットワークに寄せられた「扁摘パルスの施設照会」件数は東京都が32件で一位、大阪府は20件で第二位、以下、千葉19件、埼玉16件、北海道15件、兵庫14件、神奈川12件、京都11件、と続きます（6月7日の時点）。宮城県を除くと扁摘パルスが最も普及している地域は大阪かも知れません。さらに、もっと多数のアンケート投稿が集まると、アンケート投稿件数と施設照会件数の傾向から扁摘パルスが普及していない地域も明確になると思います。

パルスの方法では3週連続のパルス3クール（仙台方式）が最も多く（54％）、厚労省研究班がIgA腎症扁摘パルスのランダム化比較試験で採用しているイタリア方式の1-2か月毎のパルス3クールの施設はその1/4の10例でした。また、パルス2クールの回答も5名ありました。
パルス1クールのみが8名で、この中には最初は3回の予定でしたがIgGが低値であったために1回になった方が１名いました。パルス2回が5名でした。
その他の中には、パルス4回、5回などの回答があり、重症のIgA腎症が含まれている可能性が示唆されます。

ステロイド投与期間は1年間が最多で、１年半、半年の順でした。2年間のステロイド投与は3名でした。その他15名の大半は現在経口ステロイド投与中で多くはまだ1年以内でしたが、3年半と経口ステロイド無しが1名ずついました。

尿蛋白、尿潜血いずれも消失したとの回答が最多（43％）であり、尿蛋白、尿潜血がともに残ったとの回答は9例（13％）でした。そして意外にも尿蛋白は陰性化したが尿潜血が残存したとの回答は20名で、尿潜血は消えたが尿蛋白が残存した11例を大きく上回りました。その結果、全体の血尿の消失率は57％にとどまっています。扁摘パルスは糸球体毛細血管炎を高率に消滅させる治療でありますから、有効な扁摘パルスが行われた場合は尿潜血のみ残る症例は元来、稀であるはずであり、実際に私たちの1500例の治療経験では治療介入が遅すぎて蛋白尿のみが残る症例の方が血尿のみが残る例よりも圧倒的に多く、パルス3年後の尿潜血の消失率は腎症のステージとは関係なく約80％でした。
今回のこの現象が生じた原因としてはパルスの方法が多岐にわたっており、治療が不十分であった症例が含まれていた可能性もありますが、もう一つの可能性として観察期間が短かった、すなわち改善の途中で今後、尿潜血が陰性になる症例を少なからず含んでいたことが考えられます。今回、アンケートの回答をいただいた70名中26名はパルス後１年以内の段階の回答であり、「寛解」を評価するには観察期間が短すぎたといえます。

パルスの方法別の寛解率は３週連続３クールパルス18/38（47％）、１-２か月毎3クールパルス5/10（50％）、２クールパルス3/5（60％）、1クールパルス2/8（25％）でした。また扁摘パルスの作用点が糸球体毛細血管炎の消滅であることより、血尿の陰性化で比較すると３週連続３クールパルス23/38（61％）、１-２か月毎３クールパルス6/10（60％）、２クールパルス4/5（80％）、1クールパルス5/8（63％）でした。今回の解析ではパルス法の違いによる効果の差異を示唆する結果は得られませんでしたが、３週連続パルス以外は母集団が10例以下で差異を検討するには不十分であったと考えます。

罹病期間は血尿が出現してから3年以内に治療開始が37名、3年以上が33名で比較的罹病機関の短い患者さんが多いことがうかがわれました。
今回の調査では扁摘パルスからの期間が短く、今後、寛解になる症例を少なからず含んでいるため、罹病機関が3年以下と3年以上で寛解率に差異はありませんでした。しかし、治療開始の遅れと考えられる尿潜血が陰性になったが尿蛋白のみが残ってしまった例は罹病期間3年以内37例中4例（10.8％）、3年以上33例中7例（21.2％）で、治療期間が長いほうに多い傾向を認めました。