両側口蓋扁桃摘出は原則として全身麻酔下でおこないます。手術所要時間は扁桃と周囲組織の癒着の程度などで影響を受けるが熟練した医師の場合は通常30分−1時間程度です。扁摘による死亡例は1.6万-3.5万件に1例(0.003-0.007%)と報告されていますが、死亡原因は全身麻酔によるもので術式によるものではないとされています。
扁摘は術創を縫合しない開放創手術であるため、手術後出血を起こすことがあります。輸血が必要な術後出血の発生率は0.07%と報告されています。出血は術後24時間以内と、治癒過程で創面にできた白苔が取れ始める1週間後におこりやすく、仙台社会保険病院ではこの点を考慮し術後8日目を退院日としています。
頻度の比較的高い合併症として味覚障害がありますが多くは予後良好です。原因は手術時の開口器による舌の圧迫による圧迫性神経障害によるものが最も多く、この場合、長期間味覚障害が残ることはありません。一部の扁摘後の味覚障害の原因として手術時の直接的な、または術後炎症による間接的な舌咽神経舌枝の神経損傷、扁摘を契機に顕症化した亜鉛欠乏性味覚障害(若い女性であることが多い)、薬剤性味覚障害が報告されています。
扁摘は慢性感染巣の除去を目的としており、遺残扁桃はその後の腎症の再燃の原因となりえます。扁桃の下極が扁摘の際に遺残され易い部位ですが、同部位の周囲は舌咽神経舌枝が走行しており扁桃周辺部の損傷は神経損傷による味覚障害の原因となるため、特に癒着の強い症例では術者の熟練度が要求されます。
扁摘後の尿異常を詳細に解析すると7-8割の症例において術後2日目をピークに一過性の血尿の増悪を認めます。しかし、腎機能の悪化を来すような急性憎悪をおこす症例は1%以下で極めて稀です。しかも、その場合でも迅速なパルス治療を行えば腎機能は容易に回復し問題になることはありません。
扁摘とパルスの間隔は原則として1週間以上あけます。扁摘が先でも、パルスが先でも効果に差異はありません。但し、パルスを先行した場合は、パルスによるアポトーシスによって一旦は消退したリンパ濾胞が半年後には元に戻ってしまうため、6ヶ月以内に扁摘をおこなうことを原則としています。扁摘を先行させた場合はパルス開始までの期間の制限は理論的にはなさそうですが自験例の検討では扁摘から1年以上あけると寛解率が低下する傾向があるため、扁摘を先行する場合でも原則的には1年以内でパルスを行うようにしています。
ステロイドパルスは3日連続でメチルプレドニゾロン500mg点滴を行った後、経口プレドニゾロン(PSL)30mg連日4日間で継ぎこれを1クールとして、3週連続で計3クール施行する(仙台方式)(図1)。
具体的にはメチルプレドニゾロン500mg+ヘパリン2000単位+生食100ml(扁摘後、2週間以内の場合はヘパリンを除く)を2−3時間で点滴。ごく稀にメチルプレドニゾロンで発疹などのアレルギー反応を生じることがありますがその場合はメチルプレドニゾロンをβメサゾン50 mgに変更します。原則としてパルスは入院で行いますが、不眠、動悸、ほてり感などの交感神経過剰刺激による副作用は一回目のパルスが最も顕著なため、一回目のパルスで問題のない場合は2回目以降のパルスを外来で行うことも可能です。
最終パルス終了翌日よりPSL30mg隔日とし、PSLは原則として以下のごとく一年間で漸減中止とします。30mg 隔日×2ヶ月→25mg 隔日×2ヶ月→20mg 隔日×2ヶ月→15mg 隔日×2ヶ月→10mg 隔日×2ヶ月→5mg 隔日×2ヶ月→終了。
なお、パルス中に寛解が得られた症例では後療法は原則として不要です。またPSL減量中に寛解が得られた場合はその時点からPSLを急速に減量します。この場合、急速にステロイドを減らすことにより腎症が再燃することはありません。
併用薬としてステロイド投与中は原則として抗血小板薬剤(コメリアン、ペルサンチン)を投与するが蛋白尿が軽度の症例では必須ではありません。またステロイドによる消化性潰瘍防止のために必要に応じて抗潰瘍薬を予防投与します。ステロイドによる骨塩量の低下を防止するためにビタミンD3製剤、ビスフォスフォネート系薬剤などを併用することがありますが、パルス後のステロイドが隔日でありまたステロイド投与期間が最長で1年間と比較的短いのでパルス開始前より骨塩量の少ない患者と閉経後の女性以外は必ずしも必須ではないと思われます。
2007年に全国のさまざまなバリエーションの扁摘パルスを施行している医療施設に対して私が行ったアンケート調査1401例(仙台社会保険病院を除く)では、扁摘パルスによる重篤な副作用発現頻度は大腿骨頭壊死(0.24%)、肺炎などの重症感染症(0.12%)でした。大腿骨頭壊死症例はいずれも年令が40歳以上(40歳代1例、50歳代3例)でパルス後のPSLが隔日投与ではなく連日投与した症例でした。
比較的頻度が高いうえに予防が可能で、しかも発見の遅れが本格的な糖尿病を引き起こしてしまうことから、最も注意すべき副作用はステロイドによる二次性糖尿病の誘発です。パルス中、食後の高血糖は40歳以上では高頻度に生じます。夕食後に血糖が最高値となることが多いが早朝には正常域まで回復していることが少なくないので朝食前の血糖測定のみでは見落としてしまう危険性があります。昼食二時間後に血糖測定を行い200mg/dl以上の場合は毎食前の(超)速効型インスリン3回注を導入します。これにより膵β細胞の保護と糖毒性の解除を図り、本格的な糖尿病の発症を抑制できます。また通常、ステロイドの減量に伴いインスリン治療からは離脱可能である。パルス終了後も食後高血糖がある場合にはステロイド使用中はαグルコシダーゼ阻害薬を併用しますがインスリンを必要とすることは稀です。
特に若い女性が気にするステロイドの副作用であるムーンフェイスはパルスの後療法がPSL連日投与では必発だが、パルス後のPSL隔日投与とカロリー制限(1200-1400カロリー/日)でほとんどわからない程度に予防することは可能です。また、ステロイドアクネが出始めると特に若年男性では比較的短期間で拡大傾向を呈することがあります。アクネの重篤化を防ぐにはアクネが出現したら早期のミノサイクリン100mg 分2の投与開始が有効です。
動悸、ほてり感、不眠はパルスの際の交感神経過剰亢進状態のためにしばしば認められます。若年男性では稀で、女性の方が訴える頻度が多い傾向があります。症状を不快に感じるような場合はエチゾラム(商品名:デパス)などの抗不安薬を投与します。緊張し易い患者には予防的に投与することも考慮します。交感神経過剰亢進を抑えるためにはリラックスできる環境作りが必要であり、患者さんの好みによりアロマセラピーなども効果があります。交感神経亢進による副作用を未然に抑えるうえで最も重要な点は患者さんが安心してパルス治療に臨むことです。その際、患者さんに対する医師の態度は重要です。経験不足から来る、不必要に患者さんの不安を助長するような説明は慎む必要があります。
吃逆(しゃっくり)は稀な副作用であるがパルス中に認められることがあります(自経例では殆どが男性)。一過性であれば特に処置は不要ですが時には長時間持続し、患者さんには苦痛であることもあります。吃逆の対処としては柿のヘタ茶が有効ですが入手できなければ塩酸クロルプロマジン(25mg)2T分2が有効です。
●パルスは原則として3回(3週連続)おこなう(仙台方式)。
●副作用は初回が最も顕著のため初回パルスの注意深い観察が重要。特にパルス日の食後の高血糖を見逃さない。