扁摘して2年経過しても血尿が消失しない場合は何かしら解決すべき問題があります。
血尿がいつまで陰性であったかが明確でない患者さんの場合は、先ず電子顕微鏡所見の再確認が必要です。私たちの経験でははっきりとした家族歴のない菲薄基底膜病がIgA腎症と合併することが稀にあります。この場合、血尿は生涯にわたり消えることはありませんが糸球体毛細血管炎を反映しているわけではありません。追加の治療は原則として不要です。
数年前まで間違いなく血尿が陰性であった場合は(1)病巣感染が残っている(2)パルス治療が不十分だった、(1)(2)いずれかの可能性が考えられますが頻度的には前者が多いと思われます。病巣感染としては遺残扁桃の感染、鼻咽腔炎、副鼻腔炎、根尖性歯周病などの歯科領域の慢性感染が関与している可能性がありますが、中でも鼻咽腔炎が重要です。しかし、残念なことに鼻咽腔炎(上咽頭炎)の概念は耳鼻咽喉科医の間に浸透していないため、鼻咽腔炎が存在した状態で耳鼻科を受診しても必ずしも異常が発見されないことも少なくありません。詳しくは拙書「慢性免疫病の根本治療に挑む」(悠飛社出版)→、「IgA腎症の病態と扁摘パルス療法」(メディカルサイエンス・インターナショナル)→をご参照ください。
こうした、病巣感染を徹底的に治療することにより血尿の消失、すなわち糸球体毛細血管炎の消失が得ることが期待できます。経過により病巣感染の治療とともに追加パルスを行うこともあります。
血尿が消えたことは糸球体毛細血管炎が消失したことを意味します。扁摘パルスは糸球体毛細血管炎を消滅させる治療なので治療により期待される効果は到達したとみなすことができます。
すなわち、扁摘パルスを行い、血尿が消失して、蛋白尿が残った場合は治療介入時期が遅すぎたことをあらわします。この場合は、レニン・アンギオテンシン系阻害薬などにより蛋白尿の減少を目指します。
発症3年以内に扁摘パルスで寛解になった場合の再発率は平均6.8年間の観察期間で2%と極めて低値です。血尿を伴う再発が本来のIgA腎症の再発とみなすことができます。進行して糸球体数が少なくなった状態では一旦寛解しても、残った糸球体に過剰な負荷がかかってそこから蛋白が漏れ出る現象が生じやすくなります。その場合は糸球体毛細血管炎がないので血尿は伴いません(図1)